日本アーレント研究会
Hannah Arendt Research Society of Japan
【刊行】
日本アーレント研究会編『アーレント読本』(法政大学出版局)が刊行されました。
このたび、本会研究会編『アーレント読本』が法政大学出版局より刊行されました。
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詳細は、出版社のページをご覧ください。
→法政大学出版局:https://www.h-up.com/books/isbn978-4-588-15109-5.html
目次
序 【三浦隆宏】
凡 例
著作略号一覧
第I部 アーレントにおける基本概念
1 愛──その哲学的議論にみる、世界の脱‐構築 【阿部里加】
2 ユダヤ人問題──そしてパレスチナ問題 【小森謙一郎】
3 全体主義──アーレント政治思想の基礎概念 【牧野雅彦】
コラム1 マルティン・ハイデガー 【木村史人】
コラム2 カール・ヤスパース 【豊泉清浩】
4 労 働──アーレント思想の下部構造 【百木 漠】
5 制作/仕事──人為的制作物をめぐる思考の現代的意義と限界 【篠原雅武】
6 活動/行為──それは語りなのか 【橋爪大輝】
7 はじまりと出生──自由の原理と、その困難 【森川輝一】
8 公と私──古典古代モデルと現代的意義 【川崎 修】
コラム3 ハンス・ヨナス 【戸谷洋志】
コラム4 ギュンター・アンダース 【小林 叶】
コラム5 ヴァルター・ベンヤミン 【細見和之】
9 革命・権力・暴力──自由と合致する権力、自由のための革命 【石田雅樹】
10 アイヒマン裁判──「悪の凡庸さ」は論駁されたか 【三浦隆宏】
11 真理と嘘──二十世紀の政治を問う 【小山花子】
12 思 考──現われの“reality" 【青木 崇】
13 意 志──留保し、可能性を開く 【木村史人】
14 判 断──政治的なものと歴史的なものの交叉 【宮﨑裕助】
15 世 界──耐久性、共通性、複数性 【森 一郎】
コラム6 ハインリヒ・ブリュッヒャー 【初見 基】
コラム7 ニューヨークの知識人たち 【大形 綾】
第II部 現代世界におけるアーレント
1 理解と和解──人間の本質を信じること 【対馬美千子】
2 約束と赦し──アウシュヴィッツ以後の時代における政治倫理学 【守中高明】
3 悪と無思慮──アイヒマンは何も思考していないのか 【山田正行】
4 責任・道徳・倫理──アーレント責任論の意義と限界 【渡名喜庸哲】
5 芸術論──不死性のための美学 【齋藤宜之】
コラム8 物語り 【矢野久美子】
コラム9 アーレントとスピノザ 【國分功一郎】
6 自由論──複数性のもとで「動く」自由 【齋藤純一】
7 共和主義──新しさの指標 【森分大輔】
8 法と権利──政治の条件としての人為的制度 【毛利 透】
9 熟議と闘技──活動/行為はどのようなかたちをとるのか 【金 慧】
10 政治学──アーレントと政治理論 【乙部延剛】
コラム10 デモクラシー 【山本 圭】
11 社会的なもの/社会──その公共性との関係をめぐって 【河合恭平】
12 市民的不服従──新たな政治体の「はじまり」 【間庭大祐】
13 フェミニズム──「攻撃されている事柄」による抵抗 【舟場保之】
14 教育学──過去と未来を架橋する出生 【小玉重夫】
15 科学技術──科学を公共圏に取り戻すことは可能か 【平川秀幸】
コラム11 政 策 【奥井 剛】
コラム12 アーレント研究センター 【阿部里加/百木 漠】
第III部 各国における受容
1 日 本 【三浦隆宏】
2 英語圏 【蛭田 圭】
3 ドイツ 【シュテファニー・ローゼンミュラー】
4 フランス 【渡名喜庸哲/柿並良佑】
第IV部 著作解題
アーレント著作マップ
1 『アウグスティヌスの愛の概念』 【和田隆之介】
2 『ラーエル・ファルンハーゲン』 【押山詩緒里】
3 『パーリアとしてのユダヤ人』 【石神真悠子/百木 漠】
4 『全体主義の起原』 【石神真悠子/百木 漠】
5 『人間の条件』/『活動的生』 【青木 崇】
6 『過去と未来の間』 【青木 崇】
7 『革命について』 【田中智輝】
8 『エルサレムのアイヒマン』 【石神真悠子/百木 漠】
9 『暗い時代の人々』 【田中智輝】
10 『暴力について』 【田中智輝】
11 『精神の生活』 【村松 灯】
12 『カント政治哲学講義』 【村松 灯】
13 『政治思想集成』 【小森(井上)達郎】
14 『政治とは何か』 【小森(井上)達郎】
15 『政治の約束』 【和田隆之介】
16 『責任と判断』 【村松 灯】
17 『ユダヤ論集』 【押山詩緒里】
18 『思索日記』 【押山詩緒里】
19 書簡集 【田中直美】
20 手稿類 【田中直美】
21 『批判版全集』 【橋爪大輝
アーレント略年譜 【齋藤宜之】
事項索引
人名索引
【報告】
JST主催『EU Onlife とアーレント―デジタル社会のELSI※1―』に出席して
研究会運営スタッフの阿部です。今回は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が主催し2月27日に開催された、
Nicole Dewandre氏と日本のアーレント研究者による合同セミナーの模様についてご報告します。
Nicole Dewandre氏※2(太字はリンク先に移動可)は、欧州委員会(EC)で通信ネットワーク・コンテンツ・技術総局
(通称 "DG CONNECT": Directorate General for Communications Networks, Content and Technology)の社会問題にかんする
アドヴァイザーを務めておられます。欧州委員会では2011年より、インターネットの発展がもたらすオンライン世界とオフライン
世界の融合した世界をいかに構築するか議論を重ねていますが、人工知能(AI)をはじめ「情報通信技術(ICT)の展開と社会実装は、
われわれ自身のみならず他人や世界との関係を変えるという意味において、人間の条件に根本的な影響を与える」という危機感から、
ONLIFE Manifesto※3 を発表しました。Dewandre氏はこのマニフェストの作成に携わった一人で、ONLIFEの背景にはアーレントの
思想が深く関わっているとおっしゃっています。
当日は理系の研究者・開発者に向けたセミナーが開かれました。ONLIFE Manifestoとアーレント思想の関わりにかんする発表と
質疑応答が英語でとり行われ(プログラムと発表者は下記)、白熱した意見交換がなされましたが、なかでも国の政策立案や英国の
科学アカデミーの仕事に携わる方々のご発言やご質問は示唆に富み、大いに刺激を受けました。
Program and Presenters:
1. Wisdom computing※4 茂木強(JST研究開発センター(CRDS))
2. Introduction to Hannah Arendt 百木漠(立命館大)
3. The Onlife Manifesto Nicole Dewandre(DG-Connect)
4. Summary of Dewandre’s Presentation 奥井剛(京都大、司会兼任)
5. Comments on the Onlife Manifesto 阿部里加(一橋大)
午後のミーティングでは、Nicoleさんの要望により、日本における調和Harmonyの考え方をめぐって情報交換が行われました。
日本社会におけるSNSの特徴について「絆」や「ぼっち」といった現象、アーレントの公・私・社会概念に照らしつつ検討(河合恭平、
川崎市立看護短大)したほか、映画『君の名は。』にみる他者とのつながり(渡名喜庸哲、慶応義塾大)、日本の「和」が意味するもの
(奥井剛、京都大)等について話し合いました。尚、科学技術論においてアーレントに多く言及されている、平川秀幸先生(大阪大)
にも論点をご提供いただきました。
個人的には、セミナー全体を通じて「自然」、「理性」、「知」、「賢さ」といったものの捉え方(理解)の違いが、理系研究者と
人文社会系研究者の間で浮き彫りになったように思いましたが、欧州の異分野の研究者や専門家はそうした違いを認めたうえで一堂に会し、
情報科学技術の発展について将来を見据えた対話を重ねていますので、その機会があまりない日本にとって、今回の合同セミナーは貴重で
大きな意義があり、出席者の間で「議論は今後も継続して行う必要がある」という認識を共有できたことは一つの収穫といえます。
このような議論の磁場を日本に創ってくださったNicoleさんに感謝するとともに、次回はアーレント研究会の主催で、Nicoleさんとの
ディスカッションを実現できればと思います。
※1 倫理的・法的・社会的問題(Ethical, Legal, and Social Issues)。1990年に米国がヒトゲノム計画を立ち上げたさい、
研究に潜むELSIに予算が振り分けられ、研究が推し進められた。
※2 1983年6月より欧州委員会に籍をおき、EU域内市場総局、研究総局の首席事務官、「科学的助言と専門家」課長、
「持続的開発」課長、研究総局「女性と科学」課長を歴任。2011年2月より、デジタル単一市場の社会的課題についての
DG-Connect総局長顧問を務め、責任ある研究・イノベーションのアプローチの形成、社会的・技術的見地からのインタ
ラクション強化を担当。ICTの社会展開による政策的枠組みへの影響を探索するOnlife Initiativeとりまとめメンバー。
前日の26日には、ノーベル・プライズ・ダイアログの国際会議『知の未来 ~人類の知が切り拓く人工知能と未来社会~』にて
パネリストを務めた。
※3 このOnlife Manifestoの解説は、本会の会報(第三号)に掲載する予定。
※4 「知のコンピューティング」:JSTの研究開発センター(CRDS)により2012年に立ち上げられ、欧州のOnlife をはじめ米国の
IEEEの取り組みも視野に入れたプロジェクト(進行中)。Wisdom computingについての論文は下のアイコンからご覧になれます。
【報告】Hannah Arendt-Zentrumでの研究
アーレント研究会運営スタッフの阿部です。
現在、ドイツ・オルデンブルクにあるカール・フォン・オシエツキ―(Carl von Ossietzky)大学哲学研究所のハンナ・アーレント・ツェントルム(Hannah Arendt-Zentrum:以下、HAZ)に客員研究員として留学中です。
HAZに所蔵されている資料の殆どは、前回の百木さんのレポート(この報告の下に掲載)にあったニューヨークのアーレント・センターと米国議会図書館のコピーですが、最大の利点は、母語のドイツ語で書かれた草稿や資料、文献についてじっくりディスカッションできる点です。HAZは、発起人で政治思想が専門のグルーネンベルク(Antonia Grunenberg)教授と、責任者でアウグスティヌスとドイツ哲学史が専門のクロイツァー(Johann Kreuzer)教授が率いていますが、資料にかんする情報全体を網羅し、実質的に管理しているのは共同研究員のクリスティーネ(Christine Harckenthee)さんです。クリスティーネさんはドイツのほかスペインやイタリア、フランスも拠点としながら研究活動をしておられるので、ヨーロッパ圏のアーレント研究の動向に大変お詳しく、研究者の専門に応じて有益な情報を教えてくださいます。
オルデンブルクはアーレントの師匠カール・ヤスパースの出身地であるため、同研究所にはヤスパース研究部門が設置されています。シュルツ(Reinhard Schulz)教授とボームト(Matthias Bormuth)教授にアーレントとヤスパースの関わりを尋ねると、熱心に意見交換をして下さいます。大学の近くには膨大な草稿や個人蔵書を集めたヤスパース・ハウス(Jaspers-Haus)があります。アーレントが寄贈した著書もここに収められていて、ヤスパースがそれにたくさんの書きこみをしているのが興味深いです。ヤスパース・ハウスで催される講演やText Collageというイベントには毎回多くの人が参加しますが、その度にアーレントが言及されています。
大学の講義でもアーレントの名が出てきますが、個人的に面白いのは、HAZにおられる哲学講師バラテラ(Nils Baratella)さんの「悪 Das Böse」についてのゼミです。悪概念の成り立ちを、古代から現代にいたる哲学者の言葉に即して考える授業なのですが、「悪とは何か」という問いをめぐって学生は自分の考えを具体的かつ自由に述べ、率直に意見を言い合っています。バラテラさんの問いかけが優れているのに加え、学生や聴講生には一般市民やシリア人女性も複数いるので、このことも議論を活気づける要因となっているようです。
難民やテロの問題が渦巻く激動のヨーロッパにおいて、アーレントの著作とHAZの存在意義を改めて考えさせられています。HAZはアメリカのアーレント・センターと交流がありますし、毎年12月にはカンファレンスを開催しています。先日、ドイツのHAZ、アメリカのアーレント・センター、韓国のアーレント学会、そして日本のアーレント研究会(HARSJ)で、近い将来、国際会議を共催したい と提案したところ、クロイツァー教授は「ぜひやりましょう!イベント以外でも研究者間で自由にやりとりをしていきましょう」とおっしゃって いました。アメリカに次いで、ドイツのHAZとも積極的に交流を続けていこうと思います。
カール・フォン・オシエツキ―大学オルデンブルク哲学研究所Hannah-Arendt-Zentrum
http://www.uni-oldenburg.de/philosophie/forschung/hannah-arendt-zentrum/
ヤスパース・ハウス
http://karl-jaspers-gesellschaft.de/das-haus/
★お願い★(6月29日追記)
Arendt-Zentrum にある資料の複写は、著作権およびクリスティーネさんの負担の関係上、仕事ないし留学で直接訪問した方のみ許可されていますため、「複写費・送料を支払うので資料を送ってほしい」などの要求には応じかねます。つきましては、 Arendt-Zentrum への資料の複写・送付の依頼はお控えくださいますよう、ご理解のほどお願い申し上げます。
【報告】Hannah Arendt Conferenceに参加してきました
こんにちは、アーレント研究会運営スタッフの百木です。
先日、アーレント研究会スタッフの村松さん・田中さんとともに、Bard Collegeで開催されたHannah Arendt Conferenceに参加してきました。
今回のテーマは"Why Privacy Matters?"でしたが、アーレント思想における私的領域の重要性が強調されるとともに、インターネット・SNS・スマートフォン・監視カメラ・ビッグデータなどのテクノロジーの進化・普及によって、われわれの私的領域が危機に晒されていることが主要な論点となっていました。"Exposure"(露出、むき出し)という用語がくり返し使われていたのが印象的で、もはやこれだけIT技術が発展すると、純粋にprivateと呼ばれる領域を確保することはほとんど不可能になってくる、その現実に対してわれわれはいかに向き合っていくべきなのか、ということが盛んに議論されていました。
個人的にはHannah Arendt Center会長であるRoger Berkowitzさんの最初のイントロダクション報告とそれに続くDavid Brinさんのプレゼンが面白かったです。あとはやはり2日目の目玉であったエドワード・スノーデン氏とのライブセッションでしょうか。セッション中に何度も拍手が起こり、最後はスタンディング・オベーションになるほどの盛り上がりでした。カンファレンスに関しては、すべての報告の動画がアップされているようなので、関心ある方はこちらのリンクからどうぞ。
懇親会の際に、Rogerさんにも挨拶をしてきました。日本でもアーレント研究会が立ち上がったので、少しずつ交流をしていってもらえれば嬉しい、という旨を伝えてきました。Rogerさんからは喜んで、という前向きな返事をもらえましたので、今後、研究会のほうでも少しずつコンタクトをとって交流を深めていければと思っています。またHannah Arendt Centerのメンバーになれば『人間の条件』のバーチャル読書会に参加する資格なども得られるので、ぜひそちらにも積極的に参加してほしい、とのことでした。
また思いがけない収穫として、Bard Collegeの図書館に所蔵されているアーレントの個人蔵書のコレクションも見せてもらうことができました。こちらは本来であれば事前予約が必要とのことで、コレクションスペースにも実際に入ることはできないらしいのですが、今回特別にということで見学させてもらうことができました。
その他にもNEW SCHOOLを訪問して、そこでしか閲覧できない草稿のデータを見ることができたり、向こうの大学教授とお話しさせてもらったりなど、充実した時間を過ごすことができました。